つくば牡丹園の足元に広がる「見えない生態系」|土職人・関浩一園長が見つめる土壌微生物の世界

更新日:10月16日
植物の根の周囲には、肉眼ではほとんど見えない土壌微生物が存在し、植物と土の環境に関わっています。
Peony Garden Tokyo in Tsukuba(つくば牡丹園)では1996年以降、農薬を使用しない栽培を続けています。園長で土職人の関浩一氏が長年注目してきたのも、植物そのものだけではなく、その根の周囲に広がる「根圏」と、そこに生きる微生物のバランスです。
ランドスケープの印象は、植栽の配置やデザインだけで決まるものではありません。例えば芝生なら、その発色や密度、部分的な枯れやムラまでが景観全体の見え方に影響します。樹木や花も同様に、一つひとつの植物の状態が積み重なって、その場所の景観をつくっています。
だからこそ、地上に見える姿だけでなく、植物の根の周囲で何が起きているのかを知ることにも意味があります。今回は、土壌微生物と植物の関係から、普段は目にすることのない「見えない生態系」を見ていきます。
土の中にも「生態系」がある
関園長は、土壌、化学、土壌微生物について専門家から学びながら、実際の栽培を通じて自分なりの方法をつくってきました。

牡丹・シャクヤクが咲く園内。地上の景観の下で、植物と微生物が互いに影響し合う環境が形成されている / 提供:つくば牡丹園、株式会社リーフ
そこで重視しているのは、特定の微生物だけを増やすことではなく、さまざまな微生物が共存する土の状態です。土壌微生物は目で直接確認しにくい存在ですが、植物の根の周囲では、植物と微生物が互いに影響し合う環境が形成されています。
根の周りに広がる「根圏」の世界
植物の根の周囲には、根と微生物が関わる環境があります。
この根の影響を強く受ける土壌の領域は「根圏」と呼ばれます。関園長は、植物がつくった炭水化物を微生物に分け与え、その一方で微生物が土の中から養分を植物へつなぐ関係を「ギブアンドテイク」として説明します。

植物・根・根圏微生物の関係ー 植物と微生物の根圏ギブアンドテイク / 提供:つくば牡丹園、株式会社リーフ
地上に出ている葉や花だけを見ると、植物は一つの個体に見えます。しかし根の周囲まで視野を広げると、植物は土壌や微生物との関係の中で育っていることが見えてきます。
「いい菌」だけではなく、バランスを見る [H2]
微生物について関園長が説明するとき、繰り返し出てくるのが「バランス」という考え方です。
「いい土はいい菌がたくさんあってバランスが取れている」
関園長が例に挙げるのが「発病抑止土壌」です。病原となる微生物が存在していても、土壌中のほかの微生物との関係によって、病気が発生しにくい土壌があると説明します。
ここで大切なのは、土の中を単純に「良い菌」と「悪い菌」に分けることではありません。
微生物の量だけを見るのでもなく、どのような生物が共存し、どのような関係が保たれているのかを見る。この考え方が、関園長の土づくりの核の一つになっています。
土を「つくる」とは、何をつくることなのか
関園長が1991年頃から続けてきた土づくりでは、米ぬか、魚かす、大豆かす、植物残渣などを利用しながら、方法を変えてきました。当初は土の上で発酵させ、その後、事前に発酵・堆肥化してから使用する方法へと変化しています。
ここでも、何を土に入れるかだけが問題なのではありません。それが土の中でどのように変化し、どのような環境をつくるのか。そして、その環境の中で植物がどう育つのか。
関園長は自身を「土職人」と表現します。目に見える植物を育てるために、目に見えない土の状態を観察し続けてきたからこその言葉です。
見えないものも、時間をかけて育つ
微生物は、樹木のように目で成長を確認できるわけではありません。それでも、土の状態は植物の状態として現れます。
良いのか、何かがおかしいのか。その変化を見ながら、関園長は毎年の栽培を続けてきました。土づくりは、一度何かを投入して終わるものではありません。
観察し、考え、試し、また観察する。その繰り返しによって、少しずつ土地の状態を理解していきます。
景観は、地表だけに存在するのではない
私たちが「良い庭」と呼ぶものには、目に見える部分と、目に見えない部分があります。
樹木の高さ、花の美しさ、植栽の組み合わせ。そして、その下にある土。さらに、その土の中にいる微生物。
つくば牡丹園の37年を見ていると、景観とは地表に現れたものだけではなく、その下で積み重なった環境まで含めた一つの場所なのだと気づかされます。

土から学ぶ植物の循環と観察 / 提供:つくば牡丹園、株式会社リーフ
不動産の価値を考えるとき、立地や建物のように目に見えるものは評価しやすい。一方で、長くその土地を育てようとするなら、目に見えない部分にも目を向ける必要があります。
美しい牡丹やシャクヤクの足元には、長い時間をかけて育てられた土があります。その土から植物が育ち、里山の景観が形成されてきました。景観の価値を考えるとき、私たちが見ているものの下にも、長い時間をかけて育てられた世界があるのです。
美しい景観を長く育てるには、目に見えるものだけではなく、その下で植物を支える環境にも目を向ける必要があります。
関 浩一/土職人・Peony Garden Tokyo in Tsukuba(つくば牡丹園)園長
1960年生まれ。牡丹「芳紀」との出会いをきっかけに植物栽培に深く関わり、1989年のつくば牡丹園開園後、土壌微生物と有機物に着目した土づくりを追究。
30年以上の土壌改良の経験をもとに、馬ふんベースの発酵堆肥「サラブレッドみほ」の開発にも携わる。2022年3月、東京農工大学大学院博士課程(農学)を修了。現在も土づくりの指導や技術開発に取り組んでいる。

参考資料:



