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土の力と土地の価値| 農薬不使用の里山を維持する土壌づくり

執筆者の写真: Yuko Ogura
Yuko Ogura
19 時間前
読了時間: 6分
美しい庭園やランドスケープを見たとき、私たちはまず、そこに植えられた植物や樹木、景観の美しさに目を向けます。

しかし、Peony Garden Tokyo in Tsukuba(つくば牡丹園)で37年にわたり土地と向き合ってきた関浩一園長に話を伺うと、その景観を支えているのは地上に見えているものだけではないことが分かります。

開園当初の人工的に区画された牡丹園は、長年の植栽、樹木の成長、剪定、植え替え、土壌管理を通じて、牡丹やシャクヤクが里山の自然の中で咲くランドスケープへと変化してきました。

最初からビオトープをつくることを目指したわけではありません。植物にとって良い環境を整え続けた結果、多様な生き物が共存する生態系へと発展したと関園長は振り返ります。
その景観と生態系を地面の下から支えているものが、「土」です。
 

「良い土地」とは何なのか


住宅や別荘、リゾート、エステートなど、その土地ならではの景観を長期的に育てるという視点では、立地や眺望だけでなく、その下にある土壌も重要な要素の一つです。

 

世界最大級の牡丹・シャクヤク園として発展したPeony Garden Tokyo in Tsukuba(つくば牡丹園)水辺のヒーリングエリアの写真。長年の土づくりと植栽管理を通じて、多様な植物や生き物が共存する環境へと発展してきた/提供: つくば牡丹園・株式会社リーフ
世界最大級の牡丹・シャクヤク園として発展したPeony Garden Tokyo in Tsukuba(つくば牡丹園)水辺のヒーリングエリアの写真。長年の土づくりと植栽管理を通じて、多様な植物や生き物が共存する環境へと発展してきた/提供: つくば牡丹園・株式会社リーフ

 

つくば牡丹園について: Peony Garden Tokyo in Tsukuba(つくば牡丹園)は、茨城県つくば市にある世界最大級の牡丹・シャクヤク園です。1989年に開園し、約2万坪の里山に約800種類、6万株を植栽。農薬不使用の栽培と土づくりを続け、現在ではカワセミなどをはじめ多様な生き物が訪れるビオトープとなっています。例年、牡丹・シャクヤクが開花する4-5月の限られた時期に一般公開されています。

 

牡丹が教えてくれた土壌の重要性


関園長が現在の土づくりに取り組むようになったきっかけは、牡丹の栽培でした。


開園当初は、化成肥料や農薬を使用する当時の管理方法が採られていました。しかし牡丹は連作障害の影響を受けやすく、同じ場所で栽培を続けるうちに、生育が悪くなり、花が咲かなくなり、最終的には枯れていく状態を経験したといいます。


そこで関園長は、土壌、化学、土壌微生物について専門家から学び始めました。


「植物をどう育てるか」ではなく、「植物が育つ土をどうつくるか」。


その視点から試行錯誤を重ね、独自の栽培方法をつくっていきました。現在でも関園長は、自身を「土職人」と表現します。


1991年頃から続けてきた土づくりは、現在の牡丹やシャクヤク、里山の景観、生態系を支える目に見えない基盤となっています。

 

土にも「健康」がある


関園長は、土の状態を人間の身体に例えて説明します。


人間も、お腹が空けば食事をしなければ健康を維持できません。それと同じように、植物が長く健康に育つためには、その根が張る土壌そのものが健全である必要があります。


良い土壌と土について解説した概念図/提供: つくば牡丹園・株式会社リーフ
良い土壌と土について解説した概念図/提供: つくば牡丹園・株式会社リーフ

 

関園長が考える良い土壌には、三つの要素があります。

 

「物理性・化学性・生物性」

 

物理性は水や空気、土の硬さなど。化学性は植物に必要な養分など。そして生物性は土壌微生物などによって形成される環境です。


どれか一つだけを改善すればよいということではありません。植物が長い年月をかけて育つ環境では、土壌全体のバランスを見ていく必要があります。


そして土壌の状態は、一株の植物だけでなく、周囲の樹木や植物、そこに暮らす生き物へとつながっていきます。

 

30年以上かけて育ててきた「土地の健康」


関園長の土づくりは、一度土を改良して終わるものではありません。


1991年頃から堆肥づくりと土壌管理を続け、米ぬか、魚かす、大豆かす、植物残渣などを利用しながら方法を変えてきました。


当初は土の上で発酵させ、その後、事前に発酵・堆肥化してから使用する方法へと変化していったといいます。


現在の土壌は、ある時点で完成したものではありません。


毎年の観察と判断、失敗と修正。その積み重ねによって少しずつつくられてきたものです。

2008年頃には、長年の管理を振り返り、関園長は「土は健康だった」と話しています。その時点で1990年代初頭から続く土づくりの蓄積がありました。

 

つくば牡丹園の土壌の状態を確認する関園長。園長による日々の土壌チェックが、多様な生態系を支える豊かな土づくりの出発点となっている
園長による日々の土壌チェックが、多様な生態系を支える豊かな土づくりの出発点となっている/提供: つくば牡丹園・株式会社リーフ

景観は「植える」だけではつくれない


植物を植えれば、すぐに成熟したランドスケープが完成するわけではありません。


つくば牡丹園でも、若かった樹木が成長し、剪定や植え替えを重ねることで、人工的な印象から現在の自然な景観へと変化してきました。

 

例年5月になると薬用シャクヤク畑にはたくさんのシャクヤクの花が咲き、見る人の目を楽しませている/提供: つくば牡丹園・株式会社リーフ

 

土地を育てるには、時間が必要

庭園、別荘、リゾート、広い敷地を持つ邸宅など、ランドスケープそのものが不動産の魅力を構成する物件では、完成時の植栽だけでなく、その植物が10年、20年と成長できる環境を維持する視点も重要になります。


その基盤にあるのが土壌です。

 

土は土地に残る「見えない蓄積


不動産の価値を考えるとき、立地、建物、眺望、面積、利便性など、目に見える要素に注目することが多くあります。


一方で、ランドスケープが土地の魅力を構成する不動産では、目に見えない部分にも時間の蓄積があります。


何十年もかけて育った樹木。


その土地に合わせて蓄積された管理方法。


そこに形成されてきた生態系。


そして、その植物を支える土壌。


こうしたものは、別の場所で短期間に同じ状態を再現できるものではありません。

関園長が長年かけて育ててきた牡丹園を見ると、土地の価値とは現在そこにあるものだけではなく、「その場所で積み重ねられてきた時間」にも宿るのではないかと感じます。

 

植えた植物が10年、20年と成長できる環境を維持することも、景観づくりの一部となっている/提供: つくば牡丹園・株式会社リーフ
植えた植物が10年、20年と成長できる環境を維持することも、景観づくりの一部となっている/提供: つくば牡丹園・株式会社リーフ

 

美しい牡丹やシャクヤクの足元には、長い時間をかけて育てられた土があります。その土から植物が育ち、里山の景観や、多様な生命が共存する環境が形成されてきました。


土地を長く保有するということは、建物だけでなく、その土地の土や、そこから生まれる景観を育てていくことでもあるのかもしれません。

 

関 浩一 園長プロフィール


関 浩一/土職人・Peony Garden Tokyo in Tsukuba(つくば牡丹園)園長

1960年生まれ。牡丹「芳紀」との出会いをきっかけに植物栽培に深く関わり、1989年のつくば牡丹園開園後、土壌微生物と有機物に着目した土づくりを追究。30年以上の土壌改良の経験をもとに、馬ふんベースの発酵堆肥「サラブレッドみほ」の開発にも携わる。2022年3月、東京農工大学大学院博士課程(農学)を修了。現在も土づくりの指導や技術開発に取り組んでいる。

 

関連情報:



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