みなかみ町、地域と観光の新たな拠点として廃業旅館を活用へ
- Tsubasa Yajima
- 7月8日
- 読了時間: 4分
群馬県みなかみ町で、かつてにぎわいを見せた温泉街の再生プロジェクトが進行中です。現在は廃業したホテルや旅館が目立つこの地区を再び活気ある場所へと蘇らせようという取り組みであり、2025年7月7日付の日本経済新聞が報じています。
2021年から、みなかみ町、群馬銀行、住宅大手のオープンハウスグループ、東京大学大学院が連携し、行政・学術・金融・産業という異なる分野が協力するかたちでエリアの再生を進めています。
かつてのにぎわいから、廃墟へ
かつて「関東の奥座敷」とも称された水上温泉は、バブル期には大型の団体旅行客でにぎわいました。しかしバブル崩壊後は急速に衰退し、多くの建物が放置され、荒廃した景観が残されました。

右は老朽化した当時の写真、左は再生後の現在の様子。いずれも同じ場所から撮影(提供:みなかみ廃墟再生プロジェクト公式サイト )
転機となったのは、2019年のホテル一葉亭の廃業でした。その跡地が、再生への第一歩となりました。
一葉亭跡地が再生の起点に
再開発チームは、建物をすべて解体して新築するのではなく、一部を残しながら規模を縮小して活用する方法を選びました。

旧一葉亭跡地で進む解体工事の様子(提供:日本経済新聞 )
目指すのは、昭和時代のような閉鎖的な旅館ではなく、地域とつながる低層の温泉宿泊施設として再生することです。
東京大学はエリアマネジメントの知見を提供し、このプロジェクトを町全体の再生の象徴として位置づけています。
地域主導で一歩ずつ進むアプローチ
学生やプロジェクト関係者は地域住民と積極的に対話し、信頼関係を築きながら活動しています。施設の当初の開業予定は2026年でしたが、現在は2028年に変更されています。オープンハウスグループのサステナビリティ副部長・横瀬弘貴さんは「解体中に図面にない構造物が見つかり、慎重に進めているため」と説明しています。
阿部健一町長も「時間がかかっても、良いものをじっくり作ってほしい」と語っています。
草の根活動が地域に広がる動きを生む
近隣の路地裏では、かつての従業員寮「日垣寮」をイベントスペースに改装し、2022年9月には「ウラロジサマーガーデン」を開催。住民が集まり、食を通じて町の未来について語り合いました。

「ミニ廃墟再生マーケット」の様子(提供:みなかみ廃墟再生プロジェクト公式サイト)
続く10月には第1回「ミニ廃墟再生マーケット」が開催され、現在では恒例イベントとなり、2024年には町内外から約4,500人が来場しました。

白線で示したマーケット会場マップ(提供:みなかみ廃墟再生プロジェクト公式サイト)
また、工芸作家が参加する「オープンアトリエ・トライアル」も行われ、次回は7月24日から26日に開催予定です。
一か所にとどまらない広域的な構想

プロジェクトエリアの概念図(提供:みなかみ廃墟再生プロジェクト公式サイト)
このプロジェクトは一葉亭跡地にとどまらず、温泉街全体に広がっています。町では今後、JR水上駅から道の駅みなかみ水紀行館までの区間に、5つの「ひろば(公共広場)」を設け、回遊性のある空間づくりを進める方針です。
地域資源を生かした再生を目指して
2005年の町村合併で誕生したみなかみ町は人口減少に直面しています。

グラフ提供:日本経済新聞(ペイシャンスリアルティ編集)
しかしながら、谷川岳や利根川といった豊かな自然、上越新幹線で東京から1時間余りというアクセス性など、多くの魅力を持っています。東京大学都市デザイン研究室の永野雅由助教は「地域のポテンシャルは非常に高い」と話します。
町内には18の温泉地が点在し、ハイキングやスキー、ラフティング、キャンプなどアウトドア活動も豊富です。地下駅ホームで知られる「モグラ駅」こと土合駅や、首都圏の水源を担う複数のダムも有名です。
今後の課題は、こうした個別の魅力をいかに結びつけ、一体感のある地域として再構築し、観光客のみならず移住希望者や多拠点生活者を惹きつけられるかにあります。
制度的支援も広がるオープンハウスグループの参画
町は、上毛高原駅近くに広域エリアマネジメントの拠点となるアーバンデザインセンターの設置を計画しており、2024年6月補正予算では関連事業に700万円を計上しました。
オープンハウスグループは、町内でホテルやスキー場の運営も行っており、2023年には企業版ふるさと納税を通じて2億1,000万円を寄付(2022年は1億7,000万円)。
参考資料:
出典:
日本経済新聞電子版(閲覧には課金が必要です)